死刑廃止論(団藤重光 著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2025.05.01

書名 「死刑廃止論」
著者 団藤 重光
出版社 有斐閣
出版年 2000年
請求番号 326.4/32
Kompass書誌情報

死刑に関して論じた本?文献は多いが、本書は刑事法学の泰斗団藤重光東京大学名誉教授(1913-2012)の手によるものであり学問的水準が高いものである。しかし、それにもかかわらず、講演をベースにしたものなので読みやすく、死刑に関する考え方の相違を超えて、死刑の問題に関する必読書といえる。団藤名誉教授は、東京大学定年後、最高裁判所判事を務め、その経験を通して死刑廃止に踏み切るに至ったと本書で次のように記している。

「私が積極的な廃止論者になったのは、最高裁判所に入って、実際に死刑事件を担当するようになってからであります」(4頁)。「普通の事件では、合理的な疑いがあれば無罪、合理的な疑いを超える心証が取れれば有罪、というのが刑事裁判の大原則です。ところが......私は最高裁判所の在職中に、記録をいくら読んでも、合理的な疑いの余地があるとまではとうてい言えない、しかし、絶対に間違いがないかと言うと、一抹の不安がどうしても拭い切れない、そういう事件にぶつかりました」(8頁)。宣告の日、「裁判長が上告棄却の判決を言い渡しました。......われわれが退廷する時に、傍聴席にいた被告人の家族とおぼしき人たちから『人殺しっ』という罵声を......浴びせかけられました。裁判官は傍聴席からの悪罵くらいでショックを受けるようでは駄目ですが......これには私は心をえぐられるような痛烈な打撃を受けたのです。その声は今でも耳の底に焼き付いたように残っていて忘れることができません」(9頁)。

死刑制度については内閣府(かつては総理府)が定期的に「基本的法制度に関する世論調査」を実施している。世界に目を向ければ、1989年に国連において死刑廃止条約(死刑の廃止を目指す市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2選択議定書)が可決された。死刑廃止国はヨーロッパ諸国だけでない。隣国の韓国も1997年以来死刑を執行しておらず、事実上の廃止国となっている。

「仏教」の教えと「禅」の精神を建学の理念とする本学にあって、人の生死にかかわる重要問題を素通りしてよいということはありえまい。その結論がいずれであれ、本学の学生には一度は向き合ってもらいたい問題であり、それを考えるうえで本書はお勧めの1冊である。

法学部 教授 原口 伸夫 

< 前の記事へ